伝統芸能の後継者不足解消の鍵は?塩町えんぶり組の取り組みに学ぶ

伝統芸能の担い手不足は、どうやって解消したら良いのでしょうか。少子高齢化によって地方の様々な分野で担い手が減少する中、八戸の伝統芸能「八戸えんぶり」でも「子どもの参加が少なくなった」という声を聞くようになりました。旧八戸藩領のエリアを中心に約40あるえんぶり組は、10年後、20年後、どれだけ存続しているでしょうか。

近年、八戸市内においては活動を休止する組があった一方、かつて活動していた「柳町えんぶり組」を「湊えんぶり組」として復活させようと模索する動きもあります。現在活動するえんぶり組の関係者からは「新しい取り組みを始めないと組の存続が危うい」という話を聞くこともあります。

活動を休止した組、復活を模索する組、今まさに担い手不足に直面している組…状況は異なっても「後継者不足」という課題をどう解決させるかが、えんぶりの共通の課題といえそうです。

10月から始まる、塩町えんぶり組の「えんぶり教室」

八戸を代表する郷土史家・故正部家種康さんのお膝元、八戸市柏崎地区で、独自の継承活動に取り組むえんぶり組があります。100年以上続く塩町えんぶり組は毎年10月〜2月、「えんぶり教室」を行い、子どもたちにえんぶりの楽しさを伝えています。今年も練習場所の消防屯所には小中学生を中心に約20〜30人の子どもたちが集まり、ぎやかな声とお囃子が響いています。

ほとんどのえんぶり組が祭り期間の近い1月下旬〜2月上旬に練習をスタートさせる中、塩町では10月から月2回、2月に入ると毎日練習を行います。その練習方法は、現役を退いた「元老」メンバーが見守る中、30〜50代の親方衆やお囃子メンバーが全体の運営を仕切り、中高生や20代・30代の若手が子どもたちに指導するというもの。恵比寿舞、よろこび舞、豊年すだれ、太夫などのチームに分かれ、「じゃぁ、次はこうやってみようか」「足の動きが逆だね」などと優しく指導。

恵比寿舞の練習では「誰が一番上手か競争してみようか」などと楽しみながら練習していました。元老の皆さんは時折的確なアドバイスしますが、あまり多くを語らず、見守る側に徹している印象です。

塩町の練習方法は一見、当たり前の練習風景のように思えますが、「これからを担う中高生や若手が小学生を指導する」という点が継承の好循環を生んでいるように思います。「親方メンバーがしっかりバックアップする」「高齢のメンバーが見守る」という点も、重要だと言えるでしょう。

塾、スマホ、部活・・・増えすぎた選択肢。えんぶりの間口を広げ、ハードルを下げ、継続的に参加してもらうには?

「えんぶりは『宗教なんでしょ?』と言われ、子どもの参加が嫌煙されることもある」と、ある関係者は話します。しかし実際に参加してみると、えんぶりは地域住民の集いの場で、子どもたちの社会性を育てる最良の場でもあることがわかります。しかし、エンタメの少なかった昔とは違い、今は、子どもたちの遊びにも、人生の未来にも、選択肢が増えました。スマホやゲームの誘惑もあるし、塾や部活もあります。数多くの選択肢の中から、子どもたちに「えんぶり」を選んでもらわなくてはなりません。

塩町は、学校と連携して参加者を集め、えんぶりを「選んでもらう」ことに成功。練習場所は消防屯所としたことで、学校側の負担も少ないと言えるでしょう。中高生の若手が率先して小学生に指導する空気感を作り出すことで、「近寄りがたさ」を薄めることもできているように感じます。

えんぶり組が活動する消防屯所を「えんぶり教室」の会場とし、学校側の負担も少なくしました。「屯所=えんぶり」というイメージがえんぶり組への帰属意識を高め、子どもたちが小学校・中学校・高校を卒業しても途切れることなく参加しやすい雰囲気につながっているようです。

少子高齢化の中でも伝承が途切れない「エコシステム」の構築が鍵

えんぶりは地域コミュニティの縮図。塩町の練習の様子を見ていると、上手になることはもちろん、まずは参加の間口を広くし、練習のハードルを下げ、楽しさを伝えることの方が大切だと感じます。

現在の活動を続けていけば、塩町えんぶり組の未来はある程度「安泰」であるように思えます。とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大によって担い手不足に拍車がかかりました。毎年当たり前のようにえんぶりに参加していた子どもたちは、祭りが中止になることでえんぶりを経験しないまま高校生、大学生、社会人になりました。塩町のメンバーは「えんぶり教室をやっていなかったら今頃どうなっていたか」と話します。

今年初めて八戸えんぶりに参加した南部町の「高瀬町内会えんぶり組」の親方は、「八戸えんぶりに参加することを決めたら、自然と多くの子どもたちが参加してくれた。若手も協力してくれた」と話します。いくつかの地元メディアでも取り上げられ、今年の八戸えんぶりの最も明るいトピックとしても注目されました。しかし、地域メディアは毎年のように同じ話題ばかりを取り上げてはくれません。やはり、自然と人が集まってくるエコシステム(継続的な取り組み)の構築が必要でしょう。

伝統芸能の後継者不足の解消は「間口を広げ、ハードルを下げること」「楽しさを伝え、自ら学ぼう・教えようとする若手を育てること」が鍵を握りそうです。塩町えんぶり組が学校と連携して子どもたちを募集する「えんぶり教室」は、その良い例のひとつだと感じます。

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