ファンタジースプリングスは、東京ディズニーシーの中に誕生した「もう一つのテーマパーク」 そのワケは?

東京ディズニーシーの8番目となるテーマポート「ファンタジースプリングス」が6月6日、いよいよグランドオープンを迎えた。オリエンタルランドの初代社長川崎千春さんの誕生日だという日にオープンしたこのエリアは「魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界」を新旧3作のディズニー作品で描く。

アナと雪の女王、塔の上のラプンツェル、ピーターパンの世界が一つのエリアに広がり、同時にオープンしたホテル「ファンタジースプリングスホテル」の滞在と組み合わせれば、ほかの7つのエリアに行かなくても1日を楽しく過ごせてしまう。しかも混雑感を回避して楽しめる。

ここは、東京ディズニーシーの中にできたテーマポートの枠を超えた「もう一つの小さなディズニーパーク」だ。

5月31日、ファンダフルディズニーのプレビューチケットで開園前のファンタジースプリングスを訪れるチャンスを得た。アトラクションやレストランの感動は皆さんご自身にその身を持って体験いただくとして、なぜ「小さなディズニーパーク」だと感じたのかを書き連ねていきたい。

もはや「エリア」じゃなくて「パーク」

当選したチケット「ファンタジースプリング・プレビューパスポート」は、ファンタジースプリングスホテル宿泊者のみが購入できるチケット「1デーパスポート: ファンタジースプリングス・マジック」とほぼ同じ条件で楽しめる。いわば「最強チケット」だった。

私たちは、ピーターパン3回、それ以外は各2回の合計9回、少ない待ち時間でアトラクションを楽しむことができた。その上、ホテル1階のショップでの買い物や、アレンデール城内のレストランも楽しみ、夜はアレンデール城上空に大輪の花を咲かせる花火を楽しむことができた。最強チケットの効力とモバイルオーダーをうまく組み合わせて、スムーズに1日にを楽しむことができた。帰り際「このままファンタジースプリングスホテルに泊まることができればもっと最高だなー」と思いながら、パークを後にした。

ホテルと組み合わせることで「永遠に混雑しないテーマパーク体験」が待っている

ファンタジースプリングスにはこれまでの東京ディズニーシーのエリアと比べてファンタジー色が強いが、規模感から考えて「東京ディズニーシー版ファンタジーランド」ではない。単体のテーマポートと呼ぶには規模が大きいし、テーマパークと呼ぶには面積が狭い。全てがちょっと歩けば行ける距離感に配置され、絶妙なバランスの規模感で作られている。

開業から数年間はガラガラだった東京ディズニーシーは、今や大混雑し、飽和状態の日が多くなった。客としては混雑はなるべく避けたい。運営会社は無料だったファストパスを有料の「プレミアアクセス」に置き換え、入場料を変動制にするなどして実質値上げし、収益を強化しつつ混雑感の緩和に取り組んでいるように感じる。

ファンタジースプリングスには、これらとは違った形で混雑を回避できる仕組みがある。鍵は入り口にそびえる「ファンタジースプリングスホテル」にある。このホテルとエリアでの体験を組み合わせることで、混雑感を大幅に緩和し、エリア単体をテーマパークとして楽しめるようにしたのではないか。

一室6万円以上という宿泊料を払い、加えて2万2,900円~2万5,900円の宿泊者専用のチケットをを購入すれば、エリア内のアトラクションは実質「乗り放題」になる。

さらに一室30万円以上の宿泊棟「グランドシャトー」は、東京ディズニーシーで初となるドレスコードのあるレストランでミッキーマウスに会うことができたり、2つパークで使えるアトラクション利用券8枚、ショー鑑賞券4枚がついてくる。

混雑しない空間で食事を楽しみ、ミッキーとの時間を過ごし、エリアに入っても混雑なく過ごせる…。「混雑していて当たり前」の東京ディズニーリゾートで、優雅なひと時を過ごせる。専用のエントランスはエリアに直結していて、歩き疲れることもない。時間が余るのでホテルでもゆっくりできる。富裕層やインバウンド客なら飛びつくようなサービスがある。私のような一般のゲストも「頑張って貯金して優雅に過ごしたい」と思うだろう。

メインエントランスはどっち?エリアの中に「ハブ」が存在する?

ファンタジースプリングスには2つのエントランスが存在する。既存の東京ディズニーシー側に設けられた「ファンタジースプリングス・エントリーウェイ」と、ファンタジースプリングスホテル側に設けられた「ファンタジースプリングス・エントランス」だ。

私はホテル側のエントランスが、このエリアのメインエントランスだと感じた。ホテルの下に設けられたエントランスを抜けると、精霊たちが岩を削ってファンタジーの世界を作り出したという泉が広がる。そして泉を抜けると、古めかしい街並みの向こうにアレンデール城が見えてくる。吸い寄せられるようにアレンデール城に辿り着くと、その先にはラプンツェルやピーターパンの世界が待っている。

私はこの流れにディズニーランドと同じ「ハブ」が隠されていると感じた。アレンデールの向こうには、フック船長の海賊船が浮かぶ海を囲むように道が円を描き、道なりに進むだけで次の世界へと向かうことができる。ゲストはホテルを出発し、アレンデールを抜け、この道を一周するだけで、ラプンツェル、ピーターパン、ティンカーベルのアトラクションを巡り、またアレンデールに戻ってこられるようになっている。これは、ディズニーランドで言うところの「ハブ」と「ワールドバザール(メインストリートUSA)」に相当するのではないか。人を吸い寄せるアレンデール城はシンデレラ城と同じ役割だ。

ファンタジースプリングス単体にハブ、メインストリート、メインのお城が存在するとすれば、やはりこのエリアは、一つの小さなテーマパークと言えそうだ。パーク側のエントランスは、東京ディズニーシーと繋ぐために便宜上作ったものだろう。

「あらゆる世代の子ども達」が楽しめる4つのアトラクション

ファンタジースプリングスには4つのアトラクションを設けた。メインはアナと雪の女王のアトラクションだろう。このアトラクションは「あらゆる世代の子ども達」が安心して体験できるように設計されている。映画の緊張感ある場面を、ライドの動きで表現しているのが神すぎる。アナ雪ファンは物語の世界に迷い込んだような感覚になって、マジで感動する。

ピーターパンでは大人も子どもも冒険心を掻き立てられ、ラプンツェルではあらゆる世代の人が映画の名シーンに心をときめかせるだろう。ティンカーベルのアトラクションは、家族の楽しい思い出を作るのに最適だ。私は、ピーターパンのアトラクションだけでご飯10杯は食べられるほど感動した。マジで。

アトラクションが4つというボリューム感は、ホテル、レストラン、アトラクションを組み合わせてゆっくりと楽しむ上でちょうど良いだろう。この分楽しめればほかの7つのエリアに行かなくても十分満足だ。その点もやはり、このエリアが一つのテーマパークとして成立してしまう所以だ。

一般ゲストは「テーマポート」の一つとして楽しめる

では、ファンタジースプリングスホテルに宿泊しない、ワンデーパスポートで入園する「一般ゲスト」にとってこのエリアはどんな位置付けなのだろうか。

答えは簡単で、一般ゲストにとってファンタジースプリングスは「テーマポート」の一つだ。有料のプレミアアクセス(2,000円)を購入すれば優先的に楽しめるし、無料のスタンバイパスでも楽しめるようにした。「お試しでファンタジースプリングスを体験してみたい人はいつも通りワンデーパスポートで入園して、ファンタジースプリングス内のどれかひとつだけでも体験してみてくださいね」という運営側のメッセージを感じた。

当面の間は混雑が続くとは思うが、一般ゲストにも無料または低料金で楽しめるオプションを用意したのは、運営会社の一定の配慮なのだろう。

第3のパークじゃなくてよかったし、「北欧エリア」じゃなくてよかった

ここまで完璧なテーマポートを作るなら、いっそのことファンタジースプリングスは東京ディズニーシーから切り離した「第3のパーク」として開業させてもよかったのではないか…とも思う。しかし、テーマポートという選択肢をして正解だっただろう。

ファンタジースプリングスの開発が発表される以前、新しいエリアとしてアナと雪の女王をテーマとした「北欧エリア」をロストリバーデルタの横に開発することが発表されていた。

今振り返れば、ロストリバーデルタ横ではなく、駐車場を再開発してファンタジースプリングスを作ったことは、運営会社にとって大正解だっただろう。「北欧エリア」としてオープンしていれば、その位置関係やエリアの規模から、混雑を緩和することも、客単価を上げることも難しくなり、ゲストに対し「新エリアはいつも混雑している」という印象を与えていたかもしれない。

運営会社は、混雑緩和やインバウンド客・富裕層向けのサービス展開に取り組みつつ、今までのゲストにも楽しんでほしいと考え、東京ディズニーシーのエリアとして開発したのだろう。

もし仮に、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーから完全に独立した「第3のパーク」として開業していれば「新テーマパークはものすごく単価が高い」とマイナスイメージになっていただろう。その点、諸条件はあるものの、東京ディズニーシーの一部として一般ゲストも楽しめるテーマポートにしたことで、ある程度一般ゲストへのハードルも低くすることができた。これは運営会社に拍手を送りたい。

オリエンタルランドだから実現できた、「パーク」にも「エリア」にもなるハイブリッドな場所

多くのファンの期待を背負って、ファンタジースプリングスは開業を迎えた。

東京ディズニーランドが開園5周年を迎えた1988年、オリエンタルランドとディズニーは5年後に「第2のテーマパーク」を開業させることを発表し、ハリウッド映画をテーマとしたパークの開発も検討したと言う。

しかしオリエンタルランドは「日本は映画文化に馴染みがない」と強い希望を示し、日本人に親しみのある「海」を題材としたテーマパークを作ることになった。そして2001年に開業を迎えたのが、世界で唯一海をテーマとしたディズニーパーク「東京ディズニーシー」だ。

当初の目標よりだいぶ遅れての開業だったが、東京ディズニーシーは、最新の上海ディズニーランドでさえも到底敵わない魅力を放っていると、私は思う。東京ディズニーシーは、世界中のディズニーファンから「世界で最も美しいディズニーパーク」と称賛され、まるで旅人になったような気分で7つの海を旅し、最高の1日を過ごすことができる。

ファンタジースプリングスは「東京ディズニーシー」という7つの海の物語に「ファンタジー」という新しい1ページを刻む。加えて、同時に開業した新ホテルと組み合わせることで、エリア内だけで、さらに特別な物語を描くことができる。高額ではあるが「いつも混んでいる」と言われるディズニーパークの課題を、見事に解消し、こだわり抜いた世界観と最新のアトラクション、心温まるおもてなしで、理想的なディズニーパークの姿を作り上げた。

テーマポートでもありテーマパークでもあるという点で、また新しいスタイルのディズニーパークが誕生したと言っても間違いはないだろう。そしてそれは「オリエンタルランド」という日本企業だから実現できたと言って間違い無いだろう。

ファンタジースプリングスの誕生は、1983年の東京ディズニーランド、2001年の東京ディズニーシー誕生に次ぐ、オリエンタルランドの快挙だ。

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