
八戸藩南部家主催のトークイベント「八戸騎馬打毬(だきゅう)応援イベント~伝統と誇りを未来へ~」が6月14日、八戸ポータルミュージアムはっちで行われました。私は司会を担当しました。
存続の危機にある馬術「加賀美流騎馬打毬」について、一部の当事者にのしかかっていた重圧を地域社会の課題として持続可能な仕組みに転換していこうと実施。16代当主の南部光隆さんが旗振り役となり、多くの人の協力で実現しました。
3時間に渡るトークイベントには、約80人(新聞報道では120人)の市民が詰めかけ、当事者の皆さんの声に聞き入りました。
目次
人も、資金も、馬も足りない。そして時間もない

八戸三社大祭の中日の8月2日に行われる騎馬打毬。長者山新羅神社の神事として、江戸時代から198年に渡り受け継がれています。後継者不足、資金不足、馬を飼育する牧場の運営上の課題、馬の高齢化などを背景に、危機的な状況を迎えています。
その根本的な原因は・・・
- 日本が抱える少子高齢化や人口減少などの構造的な問題による地域コミュニティーの弱体化
- 生活スタイルの変化と共に、神仏信仰や伝統文化への関心が希薄になり、これらが市民生活から切り離されてしまったこと
- 時代の変化と共に牧場が激減し、文化の母体となる馬の確保が困難になったこと
- 約200年に渡る継承活動の中で、一部の人たちだけが負担を被るような構造に変化してしまったこと
などが挙げられると思います。
八戸藩南部家の当主、当事者の繋ぎ役として奮闘

イベントでは、南部さんが8代藩主南部信真(のぶまさ)の時代、長者山新羅神社の社殿の完成に合わせて騎馬打毬が始まったことを解説。現状と照らし合わせて「一口馬主制度」を提案しました。騎馬打毬の文化に関心のある人は少額で、地域の大企業は大口スポンサーとして、無理のない範囲で負担し合うというもの。
南部さんのお話に、権力者が領民をコントロールできた時代とは違い、高度に民主化された現代においては、市民一人一人が程よく負担し合って守り続けていく必要があると感じました。
無収入での継承は持続不可能 当事者が語る、逼迫した現状


八戸騎馬打毬会幹事長の山内卓(やまのうち たかし)さんや、南部打球を応援する会の工藤義治さんが現状を共有。騎馬打球会には定期収入がなく、8月2日に行われる本番も無償で行っている現状。加えて、関わる人も少ないうえに、馬も高齢化、頼りにしている牧場の経営も次の担い手がおらず、まさに危機的な状況であることが浮き彫りになりました。10年ほど前から活動している応援する会は、会場で募金活動を行うなどしています。現在の主要メンバーは2名で、暑い中での募金活動に頭の下がる思いを抱きました。
でも、意外と気軽に参加できるし、見るのも楽しい騎馬打毬
現役騎手の小向眞一さんと南部さんがフリートークを繰り広げる場面も。長年に渡り騎馬打毬の文化を守り続けてきた小向さんは、騎馬打毬は、誰でも、何歳からでも参加できる文化であることを解きました。60歳になってから騎手になった人もいたのだとか。

長年に渡り騎馬打毬の「ファン」として見守ってきた橘央子さんのお話は、多くの笑いを誘いました。「推し」の騎手を見つけることや、暑さ対策をしっかり行って会場に行くこと、おすすめの観賞場所などを解説。八戸市民ですら、騎馬打毬を知らない人が多いことを指摘しました。加えて、山形県や宮内庁で行われている騎馬打毬に比べて、八戸の騎馬打毬は激しく見応えがあることも取り上げました。
神社関係者も出席、時代に即した在り方を

客席には長者山新羅神社の関係者の姿も。騎馬打毬の会場となる「桜の馬場」を貸し出す立場である神社としても、やはり多くの人がお宮に足を運ぶ契機として、時代に即した「在り方」を模索されているのだと感じました。
今変わらなければ、きっともう、続かない

南部さんは、現在お住いの埼玉から何度も八戸を訪れ当事者に話を聞き、その現状を正しく把握しようと努めています。私たち市民にできることは、まずは、騎馬打毬の会場に足を運ぶことであると感じました。
加えて、牧場の存続について、真っ先に考えていかなければならないと言うことも感じました。騎馬打毬に使われる馬を飼育するPOLOライディングクラブ(八戸市豊崎町)では、運営するご夫妻がご高齢になり、牧場の運営に苦慮する状況です。
八戸で当たり前のように受け継がれてきた騎馬打毬。時代の変遷と共に一部の人たちに負担が重くのしかかるようになってしまいました。
南部さんは、かつて八戸を治めた大名家の立場から、文化の担い手を繋ぐ「緩衝材」として、当事者や市民の皆さんの声をよく聞き、次の時代に繋げていくための提案を続けて行きたいと考えているようです。