「せんべい喫茶」のコミュニティを引き継いだ「喫茶へバナ」がわずか2カ月で閉店することになりました。しかし、状況はネガティブな方向に向かっているというワケではない様子。その経緯を、わかりやすくまとめてみました。
2023年11月20日、八戸市鍛冶町地区で親しまれたサロン「せんべい喫茶」が、約33年の歩みに幕を閉じました。早朝、柔らかくてあたたかい出来たての「てんぽせんべい」とコーヒーを味わいながら、気の知れた仲間たちと語らう集いの場。閉店は、東奥日報やデーリー東北などの地元メディアでも取り上げられ、ソーシャルメディア上でも惜しむ声がありました。
八戸の「せんべい喫茶」が閉店(東奥日報)
早朝の社交場、惜しまれ閉店 「せんべい喫茶」33年の歴史に幕(デーリー東北)
八戸・上舘せんべい店の喫茶が閉店 地元の若者「エネルギー引き継ぎたい」(八戸経済新聞)
せんべい喫茶は、10畳ほどの空間にあらゆる経験を持ったベテランたちが集い、独特なコミュニティを形成していました。閉店直後、店を運営していた上舘さんは、この店を「生きた事典(辞典)だ」と振り返りました。何か困ったことや、知りたいことがあれば、この場所に来れば誰かが教えてくれたといいます。
しかしやはり、誰だって歳をとります。上舘さんご夫妻はとっても元気ではありましたが、「引き際」を見極めての閉店だったのだと思います。
みんなの集いの場がなくなるー。せんべい喫茶の閉店は、即ちこの独特なコミュニティが無くなることを意味しました。それに危機感を覚えて行動を起こしたのが、近くでゲストハウス「トセノイエ」を運営する鈴木美朝(みのり)さんでした。
2022年11月からトセノイエを運営する鈴木さんは、定期的にせんべい喫茶に通い、おじいちゃん・おばあちゃん達と交流を深めていました。
せんべい喫茶がなくなれば、みんなが集まることが難しくなってしまいます。それに危機感を覚えた鈴木さんは、せんべい喫茶の閉店からわずか10日の12月1日、せんべい喫茶から50メートルほどの場所に「喫茶へバナ」を開業。ソファやテーブル、常連客が使い続けたコーヒーカップなど、せんべい喫茶から譲り受けた大切な品々を使って、せんべい喫茶と変わらない居心地の良いコミュニティを守ったのです。
八戸・鍛冶町に朝の交流拠点 せんべい喫茶のコミュニティー引き継ぐ(八戸経済新聞)
鈴木さんは、おじいちゃん・おばあちゃんが中心のコミュニティに若者たちを溶け込ませました。喫茶へバナは、20~30代の大学生・社会人の仲間たちと一緒に運営。今までのおじいちゃん、おばあちゃんが中心のコミュニティに若い世代が入り込み、独特な信頼関係を形成。LINEで連絡を取り合う仲になった人もいるとか。鈴木さんや運営メンバーの働きによって、上舘さんが守った「生きた事典」に新しいページが生まれかけていました。
しかし、物事が順調に進み始めたと思った矢先、借り受けていた場所の都合によって、1月末で退去することに。「喫茶へバナ」は、開業からわずか2カ月の1月31日をもって閉店。「生きた事典」のコミュニティがまた、存続の危機に直面したのです。
喫茶へバナ、開業1ヶ月にして移転問題:改めてその存在価値を問う(鈴木さんのnote)
喫茶をやってもはっきり言って儲けにならないー。鈴木さんはそう思いながらも、このコミュニティを守る道を選びました。「人生の5%を賭けた」といい、鍛冶町地区の別の場所を借り、自身の収入から数万円の家賃を払いながら、春の再開を目指して準備を進めています。
しばらくの間のお別れとなる喫茶へバナ。おじいちゃん、おばあいちゃん、そして20~30代の仲間が集う独特なコミュニティが新しい形で姿を見せる日は、近いようです。