【取材後記】J2昇格のヴァンラーレ八戸、その原点は地域愛 創設20周年、取材で見えてきた関係者の思い

 青森県八戸市のサッカークラブ「ヴァンラーレ八戸」が2026年、創設20周年を迎えます。2006年、八戸市南郷地区で創設されたヴァンラーレ。「いぐべ!Jさ!!」を掲げ、2014年からJFL、2019年からJ3で戦い続けてきました。八戸市と南郷村の合併から20周年を迎えた2025年のシーズンは2位で終え、悲願のJ2への切符を手に。いよいよJ2に舞台を移します。

 私はこの11月~12月、お正月のラジオ特別番組「ヴァンラーレ八戸 総緑結集! All green, All together」の制作を担当しました。元キャプテンや運営会社の関係者など、ヴァンラーレを取り巻く人たちにマイクを向ける中で浮かび上がったのは「地域愛」というキーワードでした。

番組情報

本放送 2026年1月1日13時~14時
再放送 2026年1月3日16時~17時
放送局 コミュニティー放送局BeFM
スマホアプリ「リスラジ」でお聞きいただけます。

ラジオ番組の内容を、八戸経済新聞のYouTubeチャンネルで配信します。
配信日 1月1日~4日 全4回に分けて配信
配信チャンネル 八戸経済新聞YouTubeチャンネル

より詳しい情報は 八戸経済新聞 をご覧ください。

サポーターズグループは10周年、ティガーさんの思い

 サポーターの象徴的存在としても知られるティガーマスクさんは「ヴァンラーレは南郷の村おこしのために作られた。八戸市との合併で『南郷』の地名が消えてしまうのではとの声もあった。南郷の名を100年先も残せたら」と話します。

 南郷出身のティガーさん。社会人リーグだった2013年ごろ、チームの力になろうとトラのマスクをかぶってヴァンラーレの応援を始めました。立ち上げたサポーター団体「サポーターズグループ」は2026年、SNSなどを活用した活動が10周年を迎えます。かつては数人ほどだったゴール裏のサポーターの数は年々増え、今では数千人規模の大きな波へと成長しました。

 ティガーさんは「J2昇格は日々の積み重ねの結果で、ご褒美みたいなもの。地域に愛されていくために活動を続けてほしい」と話してくれました。

元キャプテンの須藤貴郁さん「八戸を誇りに思って」

 「応援は選手の力になる」と語ったのは、J3昇格時にキャプテンを務めていた須藤貴郁(たかふみ)さん。須藤さんは引退後、そのフィールドを「ラジオ」に移し、声を通してヴァンラーレの戦績を伝える活動を展開しています。須藤さんには今回の番組の中で、2025シーズンの振り返り、2026年の見どころを約30分にわたり語っていただきました。

 興味本位で須藤さんに「試合中、選手にはサポーターの姿が見えているんですか?」と尋ねると「もちろん間接視野で見えている。意識して見ることはないが、スローインやコーナーキックではしっかり見ている。静かな瞬間に応援が入ると『頑張らなきゃ』と思う。本当に、応援は選手の力になる」と応じてくれました。

 「八戸はいい町」と須藤さん。東京を拠点に移した今でも八戸をホームだと感じているようです。須藤さんの「市民はあまり言わないが、本当にいい町だと思う。その中で、ヴァンラーレがある。(八戸の皆さんには)もっと自分(の地域)を愛してほしい。まずは八戸を誇りに思って、そして、八戸にはJリーグのチームがあるということも思ってもらえたら」との言葉に、グッとくるものがありました。

創設のきっかけは、Jリーグを目指したからではない

 ヴァンラーレの下平賢吾社長は南郷出身。ヴァンラーレの誕生は南郷村と八戸市が合併した2005年の翌年のことでした。

 強くなるためだけのサッカーチームではないー。根底に流れるのは「地域に必要とされる」こと。この20年「地域に必要とされ、役に立ち、地域に愛される」の思いを絶やさずに活動を続けてきたといいます。

 意外にもヴァンラーレの誕生の裏には「Jリーグを目指すこと」よりも先に、子どもたちの環境を良くしようという思いがあったといいます。当時、合併によって、村民体育祭やソフトボール・野球の大会など、村の体育事業の存続が危ぶまれました。行政に頼らずに、地域住民の力でスポーツの灯火を灯し続ける必要があったようです。

 イタリア語を組み合わせた「ヴァンラーレ」は「南郷を起源とする」の意味。チームのエンブレムには八戸のイカと南郷特産の蕎麦が戯れます。

 ティガーさんの言葉のように「南郷」という地名が消えることも、村民にとっても受け入れ難いことだったと思います。ヴァンラーレの根底には「南郷」と「地域愛」が流れています。

J2昇格は「地域を変えられるチャンス」 課題はスタジアム整備

 J2に昇格して必要になるのが新しいスタジアム。現在のプライフーズスタジアムのメインスタンド席は1000席ほど。J2には最低でも5000席が必要で、3年以内に基本計画を提出、5年以内に着工、8年以内に完成させなければなりません。急ピッチなスケジュール感で整備する必要があり、さまざまな課題を抱えます。

 下平さんは「(J2昇格は)地域を変えられるチャンス」と語ります。目に見えて「変わった」と感じられるのは、ホーム戦での相手チームのサポーターの数。下平さんによれば、J3のホーム戦に来場する相手チームのサポーターは100人未満。これがJ2になれば、近くは「ベガルタ仙台」をはじめとした有名チームのサポーターが500人~1000人訪れることが考えられるといいます。

 しかしヴァンラーレがスタジアムを使うのは年間30日ほど。下平さんは「我々だけの施設ではなく、皆さんが使える施設にしなくては」と話します。多目的に利用でき、防災にも役立ち、地域コミュニティの拠点となるような場所とすることで、サッカーに限らずに地域全体が盛り上がる機運に繋げることが必要だと考えているようです。

 スタジアムの整備はまだこれから。地域社会の理解を得ながら進めていく必要がありそうです。

 J2の試合の来場者数は約4000人~1万5000人。この規模の試合が月に2回行われます。アウェーチームのサポーターによる宿泊や飲食、観光も伴うことも考えれば、その効果は一定程度あるといえそうです。

地域に愛されることが、前に進むエネルギー

 今回の取材では偶然にも下平さん、ティガーさん、須藤さんの言葉の中に、共通して地域を思う視点があることが浮かび上がってきました。

 20周年を迎えるヴァンラーレ。地域と一緒に歩み続け、勝利を信じて積み上げてきた日々が、結果としてJ2昇格へとつながったのだと感じました。根底に流れるのは、プロリーグのチームとしての精神はもちろんですが、それ以上に地域を愛し続け、地域と共に歩み続ける地道さ。

 ティガーさんは「J2昇格はご褒美みたいなもの」、下平さんは「J2だからという特別な思いはなく、今まで積み上げてきたことをどれだけぶれずに実直にできるか」と話してくれました。須藤さんの言葉からは、サポーターの声は確実に選手の力になることがわかりました。

 ヴァンラーレは2026年、16のホームタウンの市町村章が刻まれたユニホームで新しい舞台に立ちます。しかしその中には「17番目」として旧南郷村の村章も隠されています。

 試合会場で、八戸の歌を高らかに歌う時、地域は着実に前に進んでいるー。そんなことを感じた取材でした。

 私も市民の1人として心を込めて制作しました。スマホアプリ「リスラジ」でも聞けますので、ぜひお聞きいただけたらうれしいです。


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